ふぁーすといんぱくと


プロローグ













「さがしものがあるんです」





人気のない路地裏、例の如くシズちゃんから身を隠していたところに背後からやってきてこう話しかけてきた奴が居る。
「今そんなお遊びに付き合ってる場合じゃないんだけどな」と言ってしまいたいのをぐっとこらえる。
だってそれじゃあ俺が全然余裕がないみたいで格好悪いじゃない、たかがシズちゃん相手だってのにさ。
だからってコイツに付き合う義理もないわけで。
無視無視、こういう頭の弱そうなのには関わらないのが一番。





「おにいさんいっしょにさがしてくれませんか」





完全黙秘を決め込むことにした途端にまた話しかけられる。
もー面倒くさいなあ、勝手に何処へなりでも探しに行けっての。





「おにいさんもきこえないの?」





あーもーこっちは唯でさえ天敵から狙われてて気が立ってるっていうのに怒らせるんじゃないよ。
「ねえ」の掛け声にあわせて服の裾が引かれる。
意識しないようにして逃走ルートを頭の中で組み立てていく。
この時間帯はコンビニの集配トラックがウジャウジャ沸いてるからこれをぶつけて、





「もうこれしかないのかな」





右から左へと聞き流した哀しげな声につられるように漂ってきた鉄臭さ。
嫌な予感は重なるもので派手な破壊音が近づいてきていた。
根っからの好奇心が働いたわけじゃなく、いやほんの一割くらいはあったのかな。
もうひとつの嫌な予感の正体とこの空気を読まない不届き者のツラを拝んでやろうと、身を翻し、駆け出し、覗き込んだ。





おやおや、これはなかなか。
現れたのは人形のように整った顔立ちの青年だった。
金茶のふんわりと柔らかそうな髪、頬に濃く影を落とす長い睫、色素の薄い白皙の肌に翡翠の瞳。
そして生白い腕から滴り落ちる血液。
その傷は手首から肘までぱっくりと随分大胆に切り裂かれたのだろう。
あーあー痛そうなことしちゃって。馬鹿だねえ。





所詮他人事。
あと一時間早く出会ってたら話を聞いてあげられたかもしれないね。
背格好の割りにつたない言葉で話しかけてきたこの青年は俺の興味を惹きはしただろうに。
ま、これも時の運ってことで!





「おだいじに」
青年に聞こえたかどうかは分からないが心ばかりのネギライを。
もしまた出会えたら話くらいは聞いてあげてもいいかな。
この無駄に雑多な街でまた出会えたらね。

















この数日後、折原臨也は後悔することになる。
彼が火種の要因になり得るに足る存在であったのだから。



















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