喧嘩人形と


さがしものはなんですか?













それは彼にとっては不本意である日常の一コマの真っ最中に起こった。





「イィィィィザァァァァヤァァァァ」





人混みを掻き分け、薙ぎ倒し、蹴散らしながら目的の人物がいるとおぼしき場所を虱潰しに探し回っていた。
路地裏を覗いては次の路地裏へをもう何十と繰り返したことだろうか。
いい加減潮時かと怒気が薄れ理性が戻りつつあった静雄が、これで最後にしよう、そう思って足を踏み入れた路地裏にそれはいた。





片腕から血を滴らせ呆然と立ち尽くす男がひとり。
ただ事ではない男の空気に静雄は一瞬話しかけるのを躊躇った。
ふと目の前の人形めいた無機質な男が話し出す。





「だれもいっしょにさがしてくれません」
「さがす?」





静雄がいることに今気付いたのだろう。
驚いた様子で見上げてきた男の表情は一転して幼子のようにあどけないものへと変わった。





「あのね!おおきいおおきいいぬ、さがしてます!」





見た目とは随分ギャップのある話し方をする奴だなあと思いながら相槌を打つ。





「それでね、くちがおっきくてね、すっごくつよいんだよ!」
「そーかそりゃー良かった」





ああそうかこれは子供か。
その考えがストンと落ち着く。





「でもね、きづいたらいなかった。ひとりでいっぱいさがしたんだけどいない…」
「それで探すの手伝って欲しいわけか」
「はい」





コックリと折れてしまうんじゃないかというくらい大きく振り下ろされた小振りな頭。





「犬じゃあ警察は使えねーか」





となるとダラーズ使ってみるか。





ポツと飛び出してきたアイディアをどうやって行使したものかとまた思案に耽りかけたところで目の端に赤いものを捉える。





「あーほら、腕、出してみろ!」





静雄はハンカチちり紙を持ち歩く人間では勿論ない。
そこで自身の肩側からバリバリとシャツを破いて腕を抜き、真っ白で綺麗に糊付けされたそれを男の二の腕辺りに巻き付ける。
「よし、とりあえずはこれで我慢しろ。出来るな?」
「はい!できます」
神妙な顔つきで返事をし、またひとつ頷く姿は相変わらず幼い。





「ほれ」





手を差し出してから、流石に子供扱いしすぎかと思えば即座に握り返され満面の笑みが返される。





「俺は平和島静雄、おまえは?」





照れ隠しにぶっきらぼうに問いかければ





です、よろしくおねがいします」





ゆったりとした口調の自己紹介に頬が緩み、改めて上から下まで眺めてみる。
ああコイツ外人か、だからこんな話し方ね。
今更気が付いた男の外見的特徴から導き出した答えに納得。
すっかり毒気を抜かれた喧嘩人形は小柄な青年と手を繋いで歩き始めた。





片腕を晒したバーテン服と片腕を赤く染めた外国人の2人連れはその日の池袋ですこし話題になっていたのだった。


















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