闇医者と


どうしたもんですか?













ここは某高級マンション。
静雄の目の前には白衣の旧友と青年が並んで座っており、今まさに治療が開始されようとしていた。





「おやおやこれはまた思い切って引っ掻いたもんだね。でも血が出てる割にあんまり深くはないね。はーい、ちょっと染みるよー我慢してね」





話したわけではないのに、この新羅という男は柔らかな調子でもってに対しており、ひとり静雄は感心していた。
マンションに着いて席を勧められるまで幼子のようなこの青年は大した言動はとってはいないというのにこれは的確過ぎる対応といえる。
もしくは自分のような昔馴染みでなければこんなものなのかもしれないが。 相変わらず底が見えない男だ。





「はい!痛いのはこれでおしまい。しばらく重いもの持ったりとか握力を使うような事は避けるように!勿論、濡らしたりしないように気をつけてね」 「はい、わかりました」





そうこうするうちに左腕を包帯で巻かれた青年が出来上がっていた。





「それじゃあ不躾だけど質問させてねくん。この傷自分でつけたような感じがするんだけど」





なんとまあ直球なやつだ。
そう思いながらもこいつが聞かなければ自分が尋ねていた。
こいつの飾らない実直な態度があってこそ現在まで縁を繋いでいられたのだろうか。
そう思うと無下にすることも出来ないものだなと、逸れていく静雄の思考は青年の返事によって中断された。





「はい、これはじぶんでつけました」
「ああ、やっぱりね〜そうだと思った」





呆気なく肯定された言葉に目眩を覚え、後に続けられた新羅の言葉に驚きを隠せなかった。





「なんだってそんなことしたんだ?もしかして…なんだ…あれか?自殺でもしようとしてたのか?」
「いやいや、それはないよ。だって死にたいんだったらこの手首に走る大動脈をスパっとやらなくちゃいけないからね!まあ頸動脈なんかでもいいかもしれないけど」
「そういう問題じゃねーだろ」





なんとも的外れな茶々に(本人は至って真面目なのかもしれないが)米噛みがひくつくのを揉みほぐしながら突っ込む。





「そうだよねえ。死にたがってる人間が探し物したり、大人しく手当てうけたりしないだろうし…なんだってこんなことになったりしたんだい?」





殊更優しげなそぶりをみせて問い掛ける新羅を眺めながら、変わり身の早さというか切り替えの早さに一々ついていけないな。
静雄はちいさく長く息を吐き出して自身を落ち着かせ、暫くは傍観者に徹することにした。





「ちがほしかったからきりました」
「血が欲しい?」
「ちのにおいでよぼうとおもいました」
「呼ぶって、探してるっていう犬をかい?」
「そうです。きっときづいてくれるとおもったんですけど…もうぼくのことわすれちゃったのかなあ」





瞳を潤ませ嘆く姿があまりにも幼く頼りなくあったので、少し乱暴な手つきで青年の頭を撫でてやった。





「まぁ、たまたま気づかなかっただけかもしれねーじゃねえか。そんな気ぃ落とすなや」





バシンと背中に一喝。





「俺がその犬見つけてやるから、んな情けねー顔してんじゃねーよ」
「ほんと!しずおさんみつけてくれる?ほんと?」
「おう、男に二言はねえ!わかったらさっさとその汚ねえ面どうにかしろ」 「しずおさんありがとう、だいすき」





それはまあ、にっこりと。
満面の笑みというやつに俺の心臓はすこし速さを増した。





池袋のとある場所で、赤みを帯びた頬を緩める男がひとり。


















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