「よーうシモン今帰りか?」
「あ、カミナ」
今日のノルマも無事にこなしたおれは他の皆より少しだけ早く仕事場を後にしたところだった。
「カミナじゃねェ。アニキって呼べって言ってるだろう!」
カミナは何故かアニキと呼ばせたいらしくていつもそう言ってくる。
「何度も言うようだけどおれにはカミナみたいに兄弟いないから」
カミナにはっていうそれは立派な弟が居る。
顔も体格も性格もなにもかも似てない兄弟だけどすごく仲は良い。
その『家族』って関係は正直羨ましいなとは思う。
だからっておれがカミナをアニキって呼ぶ必要性は無いような気がするんだけど。
「別に家族って訳じゃなくてだな。なんてぇか・・・
そう!尊敬できたり憧れたり、頼りにしたりするダチのことを『アニキ』って呼んで慕うモンなんだよ!」
「カミナのどこに尊敬だか憧れたりだとか出来るって言うんだよ」
「「」」
現れたのはカミナの弟である。
彼は呆れた調子でカミナを見遣ると大きな溜息を漏らしてみせる。
「ごめんなシモン疲れてるのに馬鹿の相手させちゃって」
「いつものことだから気にしなくていいよ」
「・・・オマエ等オレを何だと思ってやがる」
おれ達の失礼な会話に不服だと言わんばかりに口を挟んでくるカミナにはサラリと答える。
「グレン団のカミナだろう」
「バッカヤロウ!鬼リーダーのカミナ様だっ!!」
拳を高々と掲げて言い放つカミナ。
いつものお決まりの口上が始まりそうだけど・・・が居るから大丈夫かな?
「はいはい。今日の夕飯はカミナの好きな『熱血スープ』があるよ。早く食べに行こう」
「さすがオレのわかってるじゃねェか。オレの気分は今熱く燃え滾ってるってな!
ようし、シモン。メシの時間だ。男はハラが減っちゃあ戦にならねェからな!」
一体今から何と戦うんだろうなんてツッコミは食事のことで頭が一杯になってしまっているカミナにはきっと届かないだろう。
とにかくこの場を上手く収めてくれたにお礼を言わなければと顔を上げると
「シモンは先にお風呂かな。折角仕事切り上げて早く出てきたんだろう?空いてるうちに済ましてきなよ」
今カミナと一緒に食堂に行けば間違いなく話題がぶり返されるのはみえていて
「・・・・・・おれ」
「ん?どうしたシモン」
「おれ、ならアニキって呼べるかも」
思わず口を吐いて出てきた言葉には水色の瞳を二三度瞬かせて
「それは光栄だな」
とても柔らかく笑った。
「でもアニキよりお兄ちゃんがいいかな。あっ!それとかお兄様とかどう?」
「お兄様はちょっと・・・」
「ははは、そーだよな。ま、呼びたいように呼ぶってね。あんま気にしないでくれな」
そう言うとはカミナを追って行ってしまった。
「呼びたいように、か」
最後の台詞はきっとカミナの事だったんだろうな。
先程よりも明らかにスピードを落として歩くカミナの傍にが肩を並べた。
そんな些細なやりとりさえもう家族の居ないおれには眩しくて仕方が無い。
「お兄ちゃんかぁ・・・」
ならそれはぴったりな呼び方かもしれない。
呼ぶのがおれっていうのはすこし問題かもしれないけど。
気が向いたら呼んでみようかな。
そしたらどんな顔をするのかな?
もし明日の朝食に果物が出てきたら試しに一度『お兄ちゃん』って呼んでしまおうかな。
みんなのお兄さん
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