雨はやまない

IF

8話にてダイガンザン奪取失敗。
カミナ、夢主捕虜として生存。
※今までの夢とは違い救いの無いダーク傾向につき注意











横腹に走る一筋の傷跡をはいつも気にしている。


もうすっかり塞がって肉が盛り上がるそれに舌を這わせて治療を施す。


まるで贖罪のように。








一日の始まりは捕らわれの身にしては充分すぎる朝食から始まる。
栄養価の高い食事に初めは喜んだりもしたがその意図に気付けばなんてことはない。



起きろ。メシが来たぞ」



「・・・ん」



腕の中で死んだように眠るソラに声を掛ける。
ゆっくりと目蓋を上げてちいさく声を漏らす姿をオレはどんな顔で見ているのだろう。



いつの間にか逆転してしまった立場。

朝日を受け、一層清らかな空気を纏ってオレを起こす
あれは幻だったのだろうか?



用意された二つのトレイ
並べられた器の中身はそれぞれ異なる。

カラン

牢内に高い金属音が反響する。
がスプーンを取り落とした音だ。



「ほら」



自分のと換えてやって手渡そうとしてやめた。
こいつはもう何かを持ち上げることすら侭ならないくらいに衰弱してしまっているのだろう。



「口あけろ。食わしてやるから」



力なく頷いたは目を閉じて雛鳥のように口を開く。
掬った粥を息を吹きかけ冷ましてやって少しづつ口に運んでやる。
ゆっくりとだが咀嚼しきちんと飲み込めているようで安心する。




何時だったかは物を飲み込むことすら出来なくなって
獣人に連れて行かれたは体中あちこちに機械を繋げられて栄養を摂っていた。


白い部屋で真っ白な顔を苦悶に歪めて
意識も無いというのには静かに涙を流して始終オレの名を呼び続けていた。












「出ろ」



牢の扉が開かれて二人の獣人がやってくる。
そのうちの一人に見知った顔を見つけてオレは迷わず声を掛ける。



「ヴィラル。今日は休ませてやってくれないか?熱も夕べから引かない」



オレの言葉に眉を顰めたヴィラルはへと視線を移す。



「ヴィラル!」



しかしこちらの言い分は聞きとめられはしなかったようで
ヴィラルは数瞬の検分の後オレからを奪い取る。



「・・・進言はしておいてやる」



オレにだけ聞こえるようにそう零した奴の表情は何かを耐えるようにグッと引き締められていた。








幾度となく戦場で顔を合わせ拳を交えた。
好敵手と呼ぶに相応しい男。

滅多に心を乱さず冷静な男が白い部屋で見せた醜態。
声を張り上げて部下を怒鳴り散らし主君にさえ刃向かった。


真っ向から主の暴挙を非難し、敵であるオレに救いを求めた。


を助けたい」と


ニンゲンの勝手が解らないと治療が出来ない。
彼を死なせたくないと

語る瞳はとても真摯だった。



ああ、コイツも同じか。



唐突に答えはみつかる。

少し考えればわかったことだ。
何故コイツはいつもオレを目の敵にしていたのか。
何故には危害を加えようとしなかったのか。


妙な連帯感とともに沸くのはなんといった感情だっただろう?








かわいそうな


己の感情に翻弄されて唯貪ることしか出来ない男と

その姿を黙ってみつめることしか出来ない男と

オマエが縋ってくれるこの箱庭を壊すことの出来ない哀れな男





虐げられて

振り回されて

繋がれて


それでも誰をも憎めないのだろうオマエ





雁字搦めに絡まった鎖はもう解くことはかなわない。


それなのにオマエは抗う事をやめないで無様に手足をバタつかせている。





いつか・・・なんて日がもう来ないと知っているのに。





それは堕ちたオレへのレクイエムのようで


酷く美しいものだった。











鎮魂を謳う

 













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