そっとしまっておいた










の残像

 










「俺の大将は本当に強い」

語る男は時折見せるあの精悍な顔つきで以て言う。

浮かんだのは熊本城降下作戦の立役者、人類の未来を担う希望の一端。
資料で見ただけの『速水厚志』はあどけない笑みを浮かべた黒髪の少年だった。



『待っていてねニア、きっと助けに来るから』



澄みきった音は今でも耳に残っている。



『約束!小指を出して、ほらこうやって』



握りこぶしから小指だけをにょきりと立たせた子供に急かされて自らもそれを真似る。
ぐいと腕ごと引き摺られ早口で捲くし上げ、ぶんぶんと振り回されたあげく、払われた。
なにがしたいんだろう。



『待ってるんだよ。わかるよね、ニア?』



いいつけはまもらないといけない。



ひとつ大きく頷いて見せれば子供は満面の笑みを浮かべ、てのひらをいっぱいに開いて、飽きるくらい長い時間頭を撫でていた。







ガシガシと乱暴な優しさで私の頭を撫でる瀬戸口の手はごつごつとした大きなもので、あの時とは随分違うように思えて、

・・・何故だかとても泣きそうになった。

「きいくに・・・」

思わず口を吐いたのは、あのやわらかいてのひらの子供の名だった。










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