男がパトカーに乗せられていくのを見て何故だかすこし寂しく思った。






時と場所と反応を考えて行動しろ!



「痴漢なんて大層なもんに遭いましたねィ」



黒ずくめの洋装の青年が親しげに話しかけてくる。
青年に対して悪い感情はないのだけれど何故だか気分を害した。



「いえ、いつものことですから」



意識するよりずっとぶっきらぼうな声。
ちょっと素っ気無かったかもしれないとぼくは後悔した。
ゴリラさんとこの人は同じ服装だからきっと同僚なのに。
よく考えたらぼくは助けて貰ったというのになんて態度をとってしまったんだろう。



「すみません。助けて頂いたのに失礼なことを・・・」

「アンタ面白いですねィ」



青年はお気に入りのおもちゃを見つけた猫のような瞳でぼくを見つめていた。
その瞳があんまりキラキラと輝いているものだからみているこちらまで楽しい気分になってくる。


どうやらぼくも彼が気に入ってしまったみたいだ。



「それは良かった。ぼくはあなたのことがとても好ましいので嫌われてしまったらどうしようかと思いました」



彼とならともだちになれるかもしれないと思うと自然と頬が緩んでくる。



「おいおい往来で隊服着用して堂々とナンパか総悟」


瞳孔の開いた人がどうやら彼を叱りに来たようだ。



「土方さん人の恋路を邪魔するたァ馬に蹴られて宇宙の藻屑になれ」


「どんだけ飛ばされてんだよ!それより仕事中だってこと分かってんだろうなぁオイ」


「俺も男だそれなりの覚悟はありますぜ。それよりいい年して浮いた話一つ無い土方さんの方が異常なんでさァ。だから土方さんはEDだって噂されるんですよ」


「テメェ見たんかァァァ!!」


「唯の噂でさァ。俺は山崎に聞きやした」


「局中法度に法って・・・斬る」



殺気立った気配に身が竦む。
この人はあんまり得意じゃない気がする。
なんだか血の匂いが染み付いてしまっているようでいて怖い。
次にあの人の纏う鮮血はぼくのものがかもしれない。
そう考えると


何故だかすこしだけ安心した。



「土方さん一般人怖がらせてどーすんですか。アンタも銀髪の旦那と一緒に臭い飯食べたいんですかィ」



怖い人からそうっと距離をとっていたぼくの背中を優しく撫でてくれた彼は頭一つ分大きい背を少し屈める。
ぼくの視界いっぱいに広がる笑顔はすごくきれい。



「あの」

「どうしやした?」

「ぼくあなたのことが好きなんでお名前教えてください」



突然周りが騒がしくなったようだったけれどぼくはそれよりも彼の名前の方がきになったのでじぃっとみつめて答えを待つ。



「俺は沖田総悟。アンタはさっきって呼ばれてやしたけど上はなんてぇんだィ」



にんまりと悪戯っ子のように笑って沖田さんはぼくの名前を聞いてくる。



「やっぱりっていうのはぼくの名前なんですか?」

「そいつぁ俺に聞かれてもわかりやせんぜ。残念ながらアンタとは今日初めて逢うんだから」

「・・・そうですか。ぼくどうやら自分の名前を忘れてしまったみたいで沖田さんにお教えすることが出来ないんです」



折角ぼくのともだちになってくれるかもしれなかったのに。
ぼくが名乗れないんじゃあともだちなんて絶対無理だよね。



「ごめんなさい」

「何泣かせてんだ総悟」



こんなみっともない顔したぼくを見られたくなくて俯いたら大きな手が頭に乗っかってきて不器用に撫で回された。
あっこの手・・・怖い人だったんだ。



「屯所に戻ればあの野郎がいる。アイツ締め上げて名前聞きゃあいーことじゃねぇか」

「あぁ!さっきの痴漢さんですね!」



怖い人の言葉に反応して思い切り顔を上げたら涙が幾つか飛び散っていって太陽の光を乱反射させた。

これで沖田さんとともだちになれる!



「沖田さん!」



嬉しくて目前の沖田さんに抱きついて叫ぶとすぐに後ろから引き離されてしまった。
なんで〜。と恨みがましくもぼくたちを引き裂いた張本人を見ると青筋を立てた怖い人。



「・・・テメェは」



なんでこの人が怒っているのか見当も付かなかったから首を傾げてみる。
「話にならねぇ」と呟いた怖い人はそそくさとパトカーにぼくを押し込めてしまった。



「総悟。テメェは熱さまして来い。近藤さんには俺から言っとく」



お大事にと付け加えて車は走り出した。
どうやら沖田さんは一緒には行けないみたいだ。
ちょっと残念だな。





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