なかなかに魅力的な誘惑














一面の暗闇を明るく照らしてくれた光を俺は今でも覚えている。





熱い血潮は生きてる証









シモンが小さなガンメンを操って、どうにか村を襲ったデカブツは退治できた。
そして、数刻前にカミナが宣言したように俺たちはシモンのドリルのお陰で今地上に居る。

・・・しかし



「一難去ってまた一難ね」



まさにヨーコの表現通り。
俺達の目の前にはデカブツガンメンが2体立ちふさがっていた。



「見逃してはくれそうにない、か」



なにせ仲間の敵である俺達だ。そう簡単に見逃す筈はないだろう。

しかし頼みのシモンは先程の勇姿は何処へやら
すっかり怯えて仕舞っている。



「しょうがねェ、天井上げろ」



どうしたもんかな?と悩んでいるとカミナの一声。
ああ、そうだ。カミナが居るじゃないか。



「やいやいやいやい。聞きやがれデカヅラ共!
 一度故郷を離れたからにゃア、負けねェ、引かねェ、悔やまねェ、前しか向かねェ、振り向かねェ。ねェねェづくしの漢意地」



抜き身の刀をぐっと構え直したカミナに敵は警戒を示したようで



「シモン、飛び込んでくれ」



「グレン団のカミナ様が相手になってやっから、そう思え!」



即座に事態を把握したシモンは体勢を整えたラガンで飛び出していた。

予感は的中。

さっきまでカミナが口上を垂れていた場所に寸分違わずガンメンの攻撃が落とされていた。
牽制が終わると共に回収したカミナが無傷であることを確認した俺は安堵に胸を撫で下ろす。



「死んじゃうよ本当に」



シモンの心配げな様子にカミナは常に無いほど真剣な表情でじっとみつめる。



「いつまで逃げる気だシモン。  折角上に出たんだ。今までのオマエを捨てるなら今だ!・・・今しかねェ」



それはとても温かな言葉に思えた。





『オレを信じろ!オマエを信じるオレを信じろ!』





そうシモンに言ったカミナ。
あの時と同じで、カミナが選んだシモンだけへの言葉。








―――まるであの時の虚像のよう








「カミナ。俺が合図したら振り返らずに走る。いい?」



飛行することいぜんに動くことすらままならくなったラガンに慌てる3人。
その混乱気味の空気を振り払うためにも俺は至極落ち着いた声を掛けた。



「返事は?」



一瞬の沈黙さえ時間が惜しくて、俺らしくないけれど催促なんてしてみる。
するとやっぱりカミナには変に思えたのだろう。
胸倉を掴んで顔をぐいと近づけてきた。



「・・・オマエ何するつもりだ」



嘘など全て見抜いてやるとその深紅の瞳は鋭さを増す。
だから俺も目なんて逸らしてやらない。



「転送管壊せば動きが止まるんだろう?ならちょっと行って止めてくる」



「馬鹿言わないで!武器もなしにどうするっていうの!?」



ヨーコまでもが息を荒げて詰め寄って来た。
だけど意地でも目線はカミナに留めたままで俺は軽く言ってやる。



「武器ならあるし奥の手もある。死ぬ気は更々ないよ。
 因みに言えば、時間が経てば経つほど俺の勝機は削られてくんだけどな」



「・・・・・・あとで覚えてやがれ」



「うん。あとで」



根負けしたカミナが漸く放してくれたので、俺はしっかりと頷いてみせた。



「・・・3、2、1。走って!」



「ケガしやがったら承知しねェからな!!」



合図と共にカミナ達は後ろへ、俺は敵前へと走り出した。

なんでそんな捨て台詞残してくかな。
そんなこと言われたら・・・絶対に死ねないじゃんか。







転送管の位置は確認済み。
後はこちらのナイフの強度次第。
せめて1体はなんとかしたいところだけど



「まぁ、後はなるようになるってかっ!」



少しヤケクソ気味な掛け声に乗ってお手製の煙幕は飛んでいった。











よく考えてみるとヨーコひとりでガンメンを相手に出来るはずもなく
協力者が居るって考えに気付けなかったのは全く俺の落ち度だろう。



「無事か、ヨーコ」



「ダヤッカ!!」



「手前の奴に弾を集めろ」



結構な距離があるにもかかわらず意外とはっきり聞こえてきたその指示。



「『流れ弾に当たって戦死』でもきっと許してくんないよなぁ」



俺はのんびりと呟いて動きを止めたガンメンからさっさと飛び降りた。











―――リットナー村

「おい、



「ん?ぅわぁ」



呼ばれて振り返った瞬間には抱きしめられていて。
思ったよりも熱いカミナの腕の中で、いつもより随分速い鼓動に耳を傾けて俺は自然と力が抜けた。



なにせ大立ち回りをこなした俺を待っていたのはダヤッカ率いるリットナー村の手厚い歓迎で
大した武器もなくガンメン相手によくやった。と囲まれて囃し立てられて
村に着くまで放してもらえなかったのだ。



「心配しすぎて疲れた」



ぽろりと本音が零れてしまって、俺は正直驚いた。
心配だなんて言葉いつもだったらこんな時口にしたりしない。
信じるって疲れるね。って遠回しな厭味を言ってやるんだけど
それだけ俺も参ってるのかな。
それもそうか。
だってガンメンって化け物に刀一本で突っ掛かってくなんてありえないじゃないか。
しかも懲りずに二回もだ。



「どっちがだよ」



ジトーっと不機嫌丸出しの視線を寄越してくるカミナに自分の無茶も思い出されて



「どっちもかな」



言い合って二人で笑ったらさっきまでの不安なんか一気に吹き飛んでいってしまった。
それはカミナも同じだったみたいで照れ隠しに無造作に俺の頭をぐちゃぐちゃに掻きまわしてくる。
甘んじてそんな子供にするみたいな行為を受けてやりながら俺は堪えきれずに欠伸をひとつ。



すると突然両肩を掴んで俺と距離をとったカミナ。
その表情はなんとも憎たらしいほどニヤついていて



「今回のことはちっとは反省してるからよ。
 お詫びにこのオレ様の胸を貸してやろう」



何故か得意げに胸を張るカミナ。
ホントまんま子供じゃん。その態度
いつもだったら張っ倒してやるところだけど



「しょうがないから借りてやるか」



これでようやく目蓋の裏でちらついていた暗闇の残像も消えてくれるだろう。



「おやすみ、兄貴」



ぽすんと音を立てて再びカミナの胸に飛び込む。
くしゃりと頭を撫でられて俺は立ちながらにも関わらず、すぐさま眠りに堕ちていった。







起きたらステーキを作ろう。と固い決意を胸に。












――――――――――――――――