気に入ってはいるんだけどね














周りには暗闇しかなくて俺は一人で泣いていた。



それは思い出せないくらい昔の出来事。









日常の壊し方









「お疲れ様〜」



語尾にたっぷりとハートがつけられた女の子たちの挨拶に俺は満面の笑みで答える。



「お先ー」



軽く手を挙げそれらに応えて作業場を飛び出した。



「お〜う!良い所に居るじゃねェか」



顔なんか見なくても分かる。
毎日毎晩、下手したら一日中だって聞かされてる声だ。



「なんだよカミナ。随分鼻が利くようになったじゃん」



驚かせる楽しみは減ったけど早く逢いたかったのは事実で
嬉しくなって振り返ってみれば、



そこにはブタモグラの大群。



「あっれー俺何時の間に寝ちゃったんだろ?」



出来れば観客でいたかったのだが、伸びてきた腕を避け損なう。


あぁ、サイアク。

大変運の悪い事に捕らわれてしまったらしい俺の耳元でカミナが声を張る。



「馬鹿野郎!俺様は夢に出てやるほど暇じゃねェんだよ」



忙しい奴が仕事中に遊びに来たりするのかよ。



「で、今回は一体何なの?」



「よっくぞ聞いてくれた
 シモンのドリルであの天井をぶち抜くんだ!
 アイツをぶち壊した先に地上がある。このまま一気に地上に駆け上がるぜ!」



あー確かに。夢でまでこんな馬鹿みたいなことされちゃたまんないよな



「無茶だよ」



シモンに俺も全力で同意。



「お前には出来る!」



「その根拠を言ってみせろ馬鹿カミナー!」



「オレの【夢】を妨げることなんて誰にもできねェからだァ!!」



漢らしくブタモグラの上で盛大に叫んだカミナ。



本当、アツくてアツくてたまらない。











そしてカミナの夢はほんの数秒後に呆気なく散った。











―――中央広場

「牢屋にぶち込んで飯抜きだ!」



いつもの村長のお説教とお仕置き。
手の平を返した弟分に拗ねるカミナ。
これまたいつも通り。




「シモンもだ。巻き込まれただけだしね。それにコイツは村長の立派な戦力。
 罰を受けるのは俺とアニキだけ。いいでしょ?村長」



そして俺もいつもの台詞。



「シモンもそうだが・・・」



続くであろう言葉をさえぎって



「アニキには悪いけど俺は既に味見でお腹一杯なの。
 寝る場所が、汚い穴倉からそれよりかましな牢屋になるだけ。感謝したいくらいだよ」



すまなそうにこちらを見ている【アニキ】の弟分たちに笑顔をひとつ。



「てめェ、この野郎!俺の城が何だって!?」



「片付けた傍から汚すんだから堪ったもんじゃないよホント」



「なにィ!!」







カミナが距離を詰めてきたと思ったらグラリと世界が揺れた。



あぁ、また地震か。

ぼんやりとそんな事を思っていたら何やら硬いものに正面からぶつかった。



「ちったぁ気ィつけろや」



どうやらバランスを崩してカミナの胸に飛び込んでしまったらしい。



「あははは、ちょっと気抜けてたかも」



ごめんねと見上げて言おうとしたらシモンが俺たちの腕を掴んでいた。



「カミナ、逃げよう!・・・カミナ!」



周りがあまりにも必死に巣穴に戻っていくのに動く様子も無い俺たちに焦ったのだろう。



「嫌だ」



「でも!」



「オレたちは逃げねェ」



俺は強制かよ。



「俺はいいよ。だけどさシモンが逃げらんないんだよ。カミナが逃げないと」



「オレは逃げないって言ってんだろう!」



「逃げないと潰されて死んじゃうぞ!」



やっとシモンの様子に気付いたらしいカミナは優しくシモンを抱き寄せて、すまないとこちらに目で謝ってきた。



「大丈夫だよシモン。直ぐに収まるからさ」



俯いたままのシモンの髪を手錠が当たらないように気をつけて梳いてやる。

地震が落ち着き皆が安心した表情を見せる。

しかし隣の男は拳を震わせていた。








「毎日毎日こうやって地震に怯えながら生きていくのかよ!地上に天井はねェんだぞ!!」



今日一番のカミナの言葉は村中に響き渡っていた。











―――牢屋

本日二度目の地震で目が覚めた俺は隣に居たはずのカミナが消えていることに気付く。



「・・・おいてけぼりなんて子供みたいな嫌がらせすんなよバカ」



地面にぽっかりと空けられた穴に向かって俺は呟いた。











―――中央広場

「いきなりヒトの村に乗り込んできて、そんなデカイ面するたァいい度胸じゃねぇか。だがな!それ以上の勝手はこの俺様が許さねェ」







ホントは勘弁して欲しいくらい暗いところが苦手な俺が決死の覚悟で穴に潜って来てみればカミナはとんでもなくデッカイ奴を相手にしていた。

もしかしたらあの化け物は地上から落ちてきたのかもしれない。
見上げればいつもは閉ざされている天井から白い光が零れ落ちてきていたから。



「カミナが地上地上って煩いからとうとう迎えが来たのかな」



欲を言うならもっと可愛らしいお迎えの方が良かったな。



『ナンダ貴様?』



「うわっ、喋るんだアイツ」



「おうおう、教えてやるからそのデカイ耳かっぽじってよーく聞きやがれ!!」



あーもうホント馬鹿。



「ジーハ村に悪名轟くグレン団。男の魂背中に背負い不撓不屈のァ鬼リーダー、カミナ様たァ俺のことだ」



・・・・・・誰か夢だといってくれ。

こんな奴が俺の兄貴だなんていくら夢でも酷すぎる。



「この村でこれ以上の無法はこのカミナ様が許さねェ!」



エライ啖呵を切って化け物に斬りつけたカミナ。
どうやら相手はかなり固いようで表面に僅かに傷を作っただけ。

ったく、しょうがねーな。



「あ、



カミナの使ってる刀の鞘を持たされているのだろう。
シモンは自分の背ほどもあるそれを確りと抱いて寄ってこようとする。



「ストップ、シモンにはやって欲しいことがあるんだ。だからここからは俺に任せて」



シモンには逃げ場の確保を頼んだ。
後やることなんて1つしかない。




肺いっぱいに空気を吸い込んだら、俺は一番の見せ場を奪ってやるんだ。



カミナがしばらく口も利こうとしなくなってしまうくらいにみせつけてやるよ。







「さあ、お仕置きの時間だよ」







誰に対してなのかは言わずもがな。





「さてと、行きますか」



腰にぶら下がった愛用のナイフに声を掛け、太陽の光が射し込むその場所へと踊りだした。











「バカだバカだと思ってたけどさ、ここまでだとは思ってなかった」



「オマエっ何で!」



『もう一匹湧いてきたか』



近くで見るとやっぱりデカイなコイツ。



「カミナ!これが勝てる喧嘩に見えるのか?無茶や無謀が取柄なんてなんの自慢にもなりゃしない」



俺の言葉に化け物が低く笑う。
カミナは今にも怒鳴り散らしてきそうな様子。 カミナもうちょっと待ってなよ。



「だけど、それがカミナの良いトコで。俺が一等気に入ってるところ」



よしよしカミナが大人しくなった。
折角の俺のイイトコロ邪魔されちゃ堪んないもんな。



「だからさ悪いんだけど化け物さん。出来たら帰ってくんないかな?じゃないとアンタぶちのめすよ」



『何をふざけたことを』



「ふざけるなんて心外だ。俺は何時だって大真面目。
 信じないって言うならそれでもいいけど、俺は負ける喧嘩に出たりしない」



そう。俺にはちゃんと勝機がある。



「俺はグレン団副リーダー。名前が知りたきゃ負かしてみなよ?」



だからさっさとかかって来い。



『ちっぽけな人間に何が出来る』



ナニが出来るんだよデカブツくん。
カミナと一緒に吠えずらかいちまえ。











攻撃態勢に入ろうとしたら頭上から青白い光の玉が降ってきて化け物にぶつけられる。
威嚇射撃ってやつかな。 軽い身のこなしで俺たちの目の前に現れたのは赤い髪を後ろで1つに結えた可愛らしい少女。



「あー、ホントのお迎え?」



「あなた達下がってなさい」



俺の声が聞こえたのかは知らないが少女は化け物から盾となるようにして背を向けたまま勇ましくも言い放った。



「また地上から」



あ。やっぱりコイツも地上からきたのか。
となるといよいよあの娘はお迎えだな。
うん。大満足だ。やる気充分。



「シモンさっき言ってたの出来てる?」



「うん!まかせて」



流石穴掘りシモン。手際のいいこと。
それに比べてカミナの奴さっきの娘口説いてるし。



「鬼リーダーなんか死んでもしらね」



そして俺は重大な事実に気付く。













ああ!あの娘にイイトコ持ってかれた!!!

はぁ、今日はとことんツいてないらしい。












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