25日もあと数時間で終わるという頃・・・










聖夜の奇跡

 










今年はプレゼントがどうとか言っていたからアイツは彼女の所に行くんだろう。

だから俺はバイト三昧。
アイツに付き合って一ヶ月前から多めに入れてたシフト。
クリスマスが近づくと途端に辞めていくバイトの中にアイツは居て
人手が足りないのはいつものことだから俺は進んでシフトを入れる。
店長は喜んでもいたけど心配もしてくれていて



「彼女が妬いちゃうわよ」



なんて揶揄ってくる。
俺に彼女なんて居ないのが分かっている癖に



「今年は一緒に遊んでくれる友達も居ないんで大丈夫ですよ」



自分の言葉で傷ついてみる。
気付いてしまいそうな気持ちを胸の奥底に沈めてしまうために







電話が鳴る。
どうやら外線の様で店長が受話器に手を伸ばす。



「いつもお世話になっておりまぁす」



電話に向かう店長に軽く頭を下げて俺は持ち場に戻った。







さて、何から手をつけようか。
思案していると店長が慌てた様子でやってきた。



くん大変よ!」



「どうしたんですか店長」



「アナタの住んでるマンションに空き巣が入ったみたいなのよ!急いで戻って欲しいって」



「え!?」



「今日はもういいから。様子見に帰りなさい!いいわね?」



有無を言わせない店長の勢いに押されてしまった俺は思わず頷いてしまう。
そして何故か俺を退けてテキパキと帰り支度をしてしまう店長。



「ほぉら!ぼさっとしてないでさっさと行きなさい」



「あ、はい。じゃあスイマセンお先です」



「はぁいお疲れ〜」



急き立てられるようにしてその場を後にすることになった。



「あ、アイツ知ってるのかな?」



思い浮かんだのは一年前の今日を共に過ごした友人の顔。
お隣さんな彼は今頃彼女と楽しくディナー中なはず

彼女へのプレゼント選びに付き合わされて
本日のデートプランに美味しいイタリアンのお店探し。

一大イベントということで彼に請われて全てに関わった自分のなんとお人好しなこと
でもお陰で彼が何処に居るのか、何をしているのか分かって無粋な真似をせずに済むんだけれど。



「今知っても後で知っても・・・天国から地獄に変わりはないもんな」



それなら少しでも長く幸せに浸らせてやりたい。
俺は鞄から取り出そうとした携帯をそっと元に戻して家路を急ぐことにした。











「・・・遅ェよ



マンションの前。
鼻の頭を赤くしたカミナが居た。



「オマエ、デートは?」



まさかこんな所に居るとは思わなかったので俺の頭は真っ白。
間抜けにも程がある声で訊ねていた。



「相手が来ないんじゃあデートもクソもねェよ、なぁ?」



彼女にすっぽかされたような口ぶり。
それにしてはイヤにニヤついているようだけど・・・



「オラ!行くぞ!」



「え?」



「待ち人が来てんだ。やるこたァ決まってんだろ?」



グイと手首を掴まれ腕に抱き込まれてしまう。



「うう〜ん、あったけー」



搾り出すように言ってカミナは俺の首筋にぐりぐりと顔を埋めてくる。
・・・人で暖をとるなよ。



「俺は冷たいんですけど」



寒さやら驚きやらでやられてしまった俺の脳ミソは襟足をくすぐる吐息の近さに漸く気付いて言葉を放つ。
意識してしまうともうダメで、俺の心臓はありえないくらいの速度で動き始めてしまう。

今なら胸に小人が住んでるって言われても頷いちゃいそう。

鼓動を鎮めるべくどうにかして距離をとろうと藻掻いていると俺を腕に収めた時と同じく突然に拘束が解かれた。



「残念だが誰かさんの所為で時間が無ぇ、これ以上はオアズケだ」



俺を解放したカミナは悪さをしでかす前の子供みたいな表情をして見せて



「12時過ぎたら魔法が解けちまう。ちょっくら走るぜ、遅れんなよ!」



駆け出したカミナにつられて大地を蹴る。

未だ混乱気味で色々と理解できてはいないけれど、どうやら今日と言う日を目の前の想い人と過ごせるらしい。

幾つか浮かんで来た言葉。
いつもだったら「なんでシンデレラなんだよ!サンタはどーした!」ってのを選んでいるところだけど



「カミナ。・・・・・・メリークリスマス」



今はこの言葉を君に・・・
本当に伝えたい言葉は12時の鐘が鳴り已んだら

それまでは胸の小人にでも預けておくから。








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泥沼愛憎劇が見る影も無い甘甘に仕上がりました。いっつみらくる!