当たり前のように居るんじゃない!






北風と太陽と恋人

 










寒いと思わねェ?」



「そんな分かりきったこと言うか?ホント信じらんね!」



帰りついたばかりの部屋は当然暖かいわけは無く
電気をつけて真っ先にエアコンのスイッチを探す。
次いでホットカーペットとコタツの電源を入れて、キッチンへ向かう。
少な目の水が容れられたヤカンをコンロに掛けたところでカミナはそう言ってきた。

寒さにめっぽう弱い俺は今、すこぶる機嫌が宜しくない。
ぞんざいな態度で返してやって、そそくさとコタツに潜り込む。
うん。あったかい。極楽だ。



「・・・ったく。コートぐらい脱げよ」



「暖まったらな〜」



呆れた様子のカミナに答えて炬燵布団を肩まで被る。
・・・背中が寒い。
これじゃあしばらくコートは脱げそうに無いかも。
情けなくも挫けかけているとずしりと上体が前に傾いていた。



「重い」



原因は分かりきっている。
カミナの馬鹿しかいない。



「寒いんだろ?暖めてやるから我慢しな」



首筋に冷えた鼻先が押し付けられて身体がひとつ飛び跳ねる。
それを憎らしくも笑い飛ばしたカミナは甘ったるい声なんて出してきて俺の名前を呼んできやがる。
反射的に思い出された光景がなんとも言い出しにくいものだったので俺は咄嗟に顔を背ける。



「・・・誘ってんのか?」



耳朶を食み、ひんやりとした指先に頤を持ち上げられる。
軽く唇を合わせてカミナはちいさく言う。



「なぁ、もっと触りたい」



暗にコートを脱ぐよう急かされて、ボタンにそっと手を伸ばす。
コイツの思い通りになるのは癪だけど


その間、顔中にキスが落とされているものだから作業はテンで捗らない。
これって効率悪いんじゃないか?なんて暢気に考えていると
気付けば俺はカーペットの上できっちりカミナに組み敷かれていた。
もちろんコートのボタンは全開だ。
俺はひとつしか外せていなかった筈だから勝手にコイツがやったんだろう。
こんな時ばかり器用過ぎて参る。


耳の裏からすぃと、ひとつしずくが滑り落ちてゆくように掠めて冷えた指は鎖骨をなぞる。
その跡を濡れた唇で辿るものだから俺は思わず体勢を変えカミナから逃げていた。



ピィィィィィィィィ



ナイスなタイミングで鳴り出してくれたヤカンくんに俺は心からの感謝を贈ってコートを脱ぎ捨ててキッチンへ向かった。
かちりとガスを切ると段々と音量を下げていくヤカンくん。

俺の心臓も鳴り止んでいって欲しいんだけれど、そう簡単にはいかないらしい。



「そりゃないんじゃねェ?」



先程までとは打って変わっていつものカミナの声色に戻っていた事に安堵してから、釈然としない敗北感に駆られた。
良い様にされてしまっていた俺としてはここで一発バシッと言ってやらないといけない!!



「オマエ手冷た過ぎ!あったまるまで俺に触んな!!」



勢いに呑まれたのかぽかんとした間抜けな面で「ゴメンナサイ」と意外と素直に謝るカミナを満足気に見遣る俺。
しかし数時間後に【手が温まった】カミナに仕返しとばかりに色々とご指導されてしまったなんて事があったりなかったり。


これが自身の発言に問題があったからだと気付いたのは
カーテンの隙間から漏れる日差しとは裏腹の寒さに震え上がって隣のカミナの胸の中に頬を摺り寄せた直後だった。



・・・なんて、笑い話にもなりやしない。








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現代パラレルその後編。
晴れて恋人となったふたりの日常です。
バカップルを体現して下さっております。もはやアニキに至っては見る影も無い・・・
ほんとスイマセン