まるでサクラであったかのように一人の例外も無く崩れ落ちた人々。
その場に佇むのはぼく一人きりで初めはなんだか将軍にでもなったみたいで壮観だなんて子供っぽい感想を抱いていた。
でも直ぐにその考えは消し飛んでしまって、後には焦燥感が残っていた。






この人痴漢です!と言えるくらい強くなれ











荒野に広がる伏した屍体の山。
どす黒く染められた大地にぼくがただ一人佇んでいる。


それはまるで地獄絵図のよう



どうしよう。
自分の体が言うことを聞かない。
怖くて仕方が無いのに声すらも出せない。
決して寒さを感じる天候でもないはずなのに震えだした手足。
訳も分からず、突然襲ってきた焦りの中に微かに見えた色彩。
こんな時に必ず傍に居てくれた人達が居た。
それはとても暖かくて、とても強くて、いつだってぼくを守ってくれていて。
遠くに見えた残像のうち白い影がゆっくりとこちらを振り向いて手を差し伸べてくる。



「あ・・・ぎん」



勝手に口をついて出た言葉にいつのまにか目の前に居た銀髪の男が驚きで目を見開く。
自らが発した誰かの名前らしき言葉も気になったのだが、何よりさらに目の前の男が無言のまま近づいてくるのでぼくはそちらの方に驚きながら後方に退いていた。
その目があまりに鬼気迫ったものだったのでぼくは怖々と男に質問してみる。



「あの、もしかして痴漢さんですか?」



漸く男の歩みが止まりぼくは安心して言葉を続けた。



「ぼくを食べてもおいしくありませんよ?」



何故かその言葉を聞いた途端に痴漢さんはぼくに抱きついてきた。



「あの、親御さんも泣いてしまわれますよ?」



「ばーか。俺にゃあ親父もお袋もいやしねぇよ、



言ってぼくの頭をガシガシと掻き雑ぜてくる。
結構力が入っていてちょっと痛いんだけどな。
呆然とぼくたちを見つめていた人達にどうにかして欲しいと目でアピールしてみる。
どうやらゴリラさんが気付いてくれたみたい。
よかった。



「万事屋、痴漢の現行犯で逮捕する」



ガシャンという金属音が聞こえてきたので、ぼくは安心してほぅっとこっそり溜息を漏らした。







3


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