心配性とかのレベルじゃない気がするんですけど・・・














無条件に信じることが出来た





お兄ちゃんは心配性









黒の兄弟と名乗る四人組。
先程からそのリーダーキタンは狩に行ってくれた三人の妹達の自慢話に華を咲かせていた。
なんとも得意気に話す姿は紛う事なき兄バカといっていいだろう。



「これぞ本当のお兄ちゃんだ。シモン覚えとけよ」



いつだったかシモンを含めた子供らに【お兄ちゃん】と付き纏われた日のことを思い出しての一言。
なんてことない。

だから別にカミナにあてつけた訳でもなく唯の感想みたいなものだった。
俺にとっては



「・・・へぇ」



驚くほど冷たい口調でカミナは零す。



「悪かったなぁ、【本当】じゃなくて」



そこでようやく自分の失敗に気が付いた。

俺が隊長さんの所から戻ってからカミナは頗る自虐的な言動が増えた。
加えてありえないくらい過保護になった。
ふたつともに共通しているのは俺に対してだけってことくらいだろうか。

子供っぽいところがあるカミナだけれど俺の前では極力大人ぶってみせていた兄の変わりようは今一番の悩みの種。
弊害なんて挙げればキリが無い。

外出はおろか食事の支度さえ許可を得なければならないし
お許しが出てもカミナによる徹底的な監視に苛まれる始末。
つまるところ単独行動はもってのほか、俺には暫く自由なんてものはありはしなかったり。

要するに今のカミナはとてつもなく性質が悪いって事だ。



「そーゆー意味で言ったんじゃない。キタンは妹思いの良い兄ちゃんだって言いたかったんだ。分かるだろ?」



「俺は弟思いじゃねェ訳だ?」



「だから、カミナを引き合いに出してるんじゃなくて!!」



投げやりに言い捨てるカミナの胸倉を掴んだところで



「ホラホラ、なに殺気立ってるのよ」



ヨーコの助け舟が出された。

次いで言葉を連ねていく美人さんたちはドピンクの毛むくじゃらを担いでのご帰還のようだ。

俺が助かったと思ったのと同じでカミナもそうだったらしい。
メシだメシだと逃げるように俺から離れていった。

ふと視線を感じて目を遣れば何か言いたげに見上げてくるシモン。
その瞳は溢れ出しそうな不安の色を揺らめかせていて、軽く自己嫌悪に陥る。
弟分にまで心配掛けてちゃ面目も立たないな。

自分の甲斐性の無さに呆れて溜息を吐きたかったのだけれど、ここはひとつ我慢して笑顔を造ることにする。



「今のは俺の言葉足らず。もう【お兄ちゃん】なんて言って邪魔してくれるなよ」



ちいさな背中を軽く小突いてやって、少し大きめの声を出してみた。

思惑通りちいさく肩を持ち上げた誰かさん。
けれど振り返りはせずに転がる石を何処かへ蹴っ飛ばしていってしまった。
不思議そうに顔を傾けているキタンに人差指を口にあてて片方の目を瞑る。
ぽかんとして見せた後に男は頼もしげに胸を大きく叩いて笑ってきた。











今回のガンメンのように数が多くておまけに素早いヤツ相手では攻撃手段の無い俺。
生身の俺が正面きってどうこう出来る訳はないので大抵の局面では役立たずに徹するしかないからこんな言い方は実に高慢だけれど。



「ロンに後方支援できるような武器をオネダリしよう」



そう心に決めたところで凄まじい落石の強襲に遭って思考は一時中断。
ほら、怪我したらまった煩そうなヤツが居るからしょうがない。

ヨーコやキタン達のようにグレンとラガンの援護に回れはしないから避難をはじめる。
その途中で三人のお嬢さんたちを颯爽と助けてから、俺は件のグレンラガンとやらの勇姿を見届けることにした。











でっかい夕日に向かって黒の兄弟は行ってしまった。
最後まで言い合いをしていたカミナとキタンはやっぱり似たもの同士で見ていて笑えたが俺の心は未だ晴れてはいなかった。

さっきの戦いを見ていてなんだか分かったような気がした。
カミナが最近べったりな理由。
それはとても嬉しいことだけど、俺は素直に喜ぶことが出来なかった。



簡単な夕食を終えてそれぞれが寛ぐ頃合をみてカミナを誘った。
勝利の余韻とやらに浸っているらしく上機嫌に振舞うから、言うのを止そうかなんてすこし思う。
丁度カミナが「なんか話したいんだろ」と促してくれたので俺はここぞとばかりに切り出すことにした。



「ホンモノの絆じゃねェ!見せ掛けだけの紛いモンよォ!」



戦いのさなかカミナが発した言葉。
抑揚も無く口にしてみると一層虚しく感じられて、俺は不覚にも声が震えてしまった。



「カミナは俺との絆も信じられないから、ずっと見張ってるんだろう?」



俺は綺麗に並べられた人形なんかじゃないんだ。
自分で考えて、行動して・・・
そりゃたまにはドジ踏んだりすることもあるけど



「なんだか初めて会った頃のオマエみたいで、俺はちょっと寂しいよ」



暗いところは苦手なんだ。
一人ぼっちで、寂しくて、怖いんだ。
イイコになんてなりたかったわけじゃない。
ただ、カミナが誉めてくれるから。
「イイコだな」って笑うから。
抱きついた温もりがまぼろしのように消えてしまわないでいてくれるから。

それだけで最初は充分だったのに



「置いてくなよ。連れてけよ。俺はおまえの傍に居たいんだよ」



大切に、大事にされてるのは分かってる。
危害を及ぼすものから遠ざけて、閉じ込めて、奪う。

俺を護ることだけに必死になって、カミナは俺との時間を失くしてしまったんだ。



「口にしなくても伝わるなんて、あれはきっと嘘っぱちだよ」



だって俺はカミナの総てを分かっていない。
あんなに一緒に居るってのに、俺には全部は分かっていないんだ。



「ねぇ俺にも教えてよ。俺はもっとカミナのことが知りたいんだ」



どう感じて、どう考えて、どうしたの?
俺の想像じゃなくて、カミナのほんとうが知りたいよ。



「・・・オマエの方が分かんねェんだよ!いつも、いつも、いつも、いつも、笑ってばっかいやがって!!」



絞り出すように紡がれた声は段々と音量を上げて、ぐっさりと胸に突き刺さった。



「苦しいなら苦しいって言え!悲しいなら悲しいって言え!辛いなら辛いって言ってくれ!オレは無理して笑ってるオマエの顔が一番嫌いなんだよ・・・



消え入りそうなほどか細い声。
それは俺も聞いたことのないカミナのほんとう。



「・・・うん、ごめん」



不謹慎だけれど俺は笑っていた。



「なに笑ってやがる!オレ様が思いの丈をぶちまけてやってるってのにその態度はなんだ!!」



勿論カミナは大激怒。
角でもなんでも生えてきそうな勢いで雷を背負ってる。

びしりと目の前に突き出された人差し指をてのひらと一緒に両手で包み込む。
ごつごつとしたカミナの手は俺のよりずっと逞しくてあったかくて、なんだか心強く思えた。



「だって嬉しいんだ。嬉しいときは笑うもんだろう?」



カミナとキタンが喧嘩腰に言い争う光景をみて笑ったそれとは違って

俺はほんとうを知れたという幸福感でいっぱいになって、笑わずにいられなかったんだ。












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