指先から伝わるあたたかな感情






ゆるやかに

 










コンビニ行ってくる。と部屋を出たのはバッチリスーツを着こなした美人のお姉さんがニュースを読み出した頃。
つまり俺が毎週楽しみにしてるバラエティ番組が始まる五分前で。
マフラー忘れたと気が付いたのと同時に思い出した。


そのまま観に戻ってしまおうかと思ったら、
さらさらと静かに音を立てて流れる中にアヒルを発見してしまった。
何メートル間隔かで建てられた街灯もちいさな川全体を照らすには至らないようで黒一色の中にその黄色は厭に目立った。
水流もさほど激しくないらしくアヒルは進んでいるのかも分からないくらいのスピードで泳いでいて。


なんだかその姿にえらく胸を打たれたもんだから俺は渡りかけていた橋の中腹まで戻って彼にエールを送ることに決めた。


川の流れが案外耳に心地良いなと手摺に頬杖をついてから思った。
あとでカミナにも教えてやろう。
そこまで考えて俺はすぐさま原色のヒーローに釘付けになった。



















「おい!」



せせらぎの中に聞き慣れた声が響いてきたので俺は水面から視線を移した。



「おう。なんか欲しいもんあったか?メールすりゃ買ってくんのに」



「バッカ、ケータイ繋がらねェし!しかもたかがコンビニでどんだけ時間掛かってんだよ!!」



そんなに長居しているつもりはなかったんだけどそれなりに時間は経っていたよう。
そういえば体冷えてるなと思いながらケータイを取り出す。
アレ?電源切れてる。もしかして



「・・・・・・あ〜充電切れてる。ごめんなさい」



「オイ。まったくもって誠意が感じられねェよ?



気のせい気のせい。とカミナを宥めて歩き出す。


いざ往かん!コンビニへ。
両のポッケに手を突っ込んで一歩、二歩。


三歩目を前に出したところで俺の手は何故か空中にあった。
そして引き上げられた右手は、カミナの左のポッケに収められてしまう。



「あったか」



思ったままを口にして俺は笑った。















寒空の下、結構な時間応援していた後遺症らしく何が欲しかったか忘れてしまった。間抜けなことに
とりあえずカミナの好きなソーダ味の棒アイスと俺のお気に入りの苺のカップアイスをカゴに放り込んだ。



「あと肉まんとおでんな!」



カゴ係のカミナに伝えて俺はさっさと雑誌の立ち読みに向かう。
まだいろいろと物色してたみたいだから少しくらいは読めるだろう。
早速ページを捲ってみたら運の悪いことに目当ての漫画が載っていない。


仕方ないかとラックに戻したところで店員さんのアリガトウゴザイマシタが聞こえてきた。















コンビニで買った肉まん。
本当は食べながら帰ろうと思っていたのにカミナが手を差し出してくるもんだから
・・・ぎゅっと握り返してやった。


俺の掌とカミナの掌の間にはちょっと熱めの缶コーヒー。


部屋に戻ったらアイスを冷凍庫に押し込んで
残念だけど肉まんもおでんもコーヒーも明日の朝までお預けにして


右ポッケに隠してるソレ(可愛らしいアヒルのパッケージだった)の出番にしてあげよう。








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現代パラレルさらにその後編。
普通の恋人ちっくにらぶらぶと。